【2019年】紅玉いづきおすすめの本ランキングTOP7
好きな人に教えてもらったことがきっかけで読み始めました。筆致が柔らかく、読みやすいながら、描くものの鮮烈さが凄まじいです。言葉の選び方や景色の描き方が独特で、美しい。絵画のような小説を書く小説家で、どの作品も肌に合うから、ずっと好きで読んでいます。紅玉いづきさんのおすすめの作品をランキング形式でご紹介します。
第7位.紅玉いづき「大正箱娘」
紅玉いづき「大正箱娘」がおすすめの理由
まず、本自体の装丁が、世界観に合っていて美しいです。登場する少女たちの描き方が紅玉さん特有のもので、やや読みづらさがありますが、大正という時代に在った彼女たちの姿が鮮明に浮かびます。ミステリにあまり馴染みのない他人にもお勧めできる作品です。「箱」にまつわる謎や、それを解き明かす記者の姿、記者を支える大人、目まぐるしく移り変わる景色などが鮮烈に描き出されて、夢中になって読んでしまいます。タイトルにある「箱娘」とはなんなのか、という疑問を持って読むと、より一層楽しめるかと思います。主人公と一緒に謎を解き明かしていくような心地になります。また、「箱娘」自身も謎めいていて、謎が謎を呼び、読者たる私自身が箱の中にいるかのような気持ちになってきます。他の方の感想を聞いたことはありませんが、同じような気持ちになった人も多いかと思うので、おすすめです。
第6位.紅玉いづき「あやかし飴屋の神隠し」
紅玉いづき「あやかし飴屋の神隠し」がおすすめの理由
短編集で、区切りよく読めます。収録されている各話に登場する人々は皆、あやかしに魅入られていて、その一人ひとりの人生の一部の切り出し方が紅玉さん特有のもので、残酷ながらとても美しいです。1編目の主人公の女性の、「人生を賭けてきたものがダメになった瞬間の絶望感」などは、特にお気に入りです。文字だけで作られた世界なのに、まるで足音や物の落ちる音までもが聞こえてくるようです。台詞回しなどが浮世離れしていて、全ての言葉が秀逸に作品の世界観を作っていて面白いです。飴屋がなぜ飴屋なのか、あやかしとは何を指すのか、私を含む読者のすべてが、もしやすでにあやかしに魅入られているのか……。疑わしい気持ちにも、期待するような気持ちにもなれます。ライトノベルというには少々重い気がしますが、紅玉さんの筆致でとても読みやすいので、お勧めです。
第5位.紅玉いづき「MAMA」
紅玉いづき「MAMA」がおすすめの理由
「愛」とはこう、なのだ。と、有無を言わさず納得させられてしまうような作品です。淡々と進むので読みやすいが、味気ないわけではない、不思議な読み心地です。幸せかどうか、は、本人たちが決めるものだ……と思わせられます。愛とはこうなのだ、と納得させられる、とはいっても、描かれている「愛」は1つだけではなくて、私はそこが好きです。それは親愛だったり、家族愛だったり、友愛だったり、恋愛だったりしますが、どれが優れていてどれが劣っている、というような描写は一切ありません。また、「なぜ彼が主人公の少女に付くのか?」という、読み始めた誰もがきっと抱く疑問を、「愛だから」と示すラストが、兎に角心に染みます。作品は不思議な世界観でありながら、親しみのあるこの世界にも似ています。全編通して説得力があり、お勧めです。
第4位.紅玉いづき「ブランコ乗りのサン=テグジュペリ」
紅玉いづき「ブランコ乗りのサン=テグジュペリ」がおすすめの理由
少女サーカスに所属する女の子たちの強さや少女らしさ、あるいは女らしさが鮮明で、人によっては毒のように映るかもしれません。「サーカスにいるのに少女であることは必要だけれど、女であることは必要ない」と切り捨てる少女や、例え演者が本人ではなくても、その一瞬が美しければそれでいい、とするサーカス団長の心情描写がナイフのよう。サーカスに入り、文学者たちになぞらえた役名をもらった少女たちは、日夜「そのときを美しく咲いていればいい」というサーカスの在り方に沿って、自身を消費するように美しく咲きます。独特な環境に詰め込まれた少女たちの心がどう動くのか、愛憎が発生するのか、執着が外に向けられるのか、最後までサーカスに居るのは誰よりも強い執着を示した者でしかないのか……様々な「力」や「強さ」を描いている本で、読んだ人はラストには必ず驚嘆することでしょう。とにかく読んでほしい、と思います。
第3位.紅玉いづき「ガーデンロスト」
紅玉いづき「ガーデンロスト」がおすすめの理由
年頃の、高校生の少女たちが、お互いの心の在り方・持ち方に、羨んだり妬んだり、疎んだり、傷つけあったりする。大人でもなく子供でもない彼女たちの有様が、目の前で繰り広げられている……自分も物語の一員なのだ、という気がしてくる作品です。プリーツの取れてしまったスカートや、机にかじりついて勉強した少女や、人のために自分を砕いてしまう少女。自分を貫く、女の子らしい少女。自分の正義を押し通したがる、子供らしくて、けれども大人っぽい少女。その心がぶつかり合って、喧嘩にはならなくても小さな諍いが起こって、それでもどうしてか離れられない彼女たちの楽園(ガーデン)の物語です。高校はいつか卒業するし、楽園は失われる。読後感が、その郷愁感に似ています。かつて少女だった、あるいは少女になりたかったすべての大人たちにお勧め。
第2位.紅玉いづき「ミミズクと夜の王」
紅玉いづき「ミミズクと夜の王」がおすすめの理由
紅玉さんのデビュー作です。若々しい筆致で、ファンタジーとして完成されていると思います。主人公の「ミミズク」の吐く言葉が、よく胸に刺さります。痛ましくもあり、美しくもある。ミミズクは、いついかなるときも見出されることによって人生を変えられますが、最後の選択は彼女に委ねられています。何を覚えても、あの森を忘れられない。どんな言葉を覚えても、拙く精一杯表現していた頃には届かない……文章を読み書きする人が、きっと一度は抱いたことのある葛藤を、ミミズクは抱きしめながら成長していきます。彼女の選択・その結果の行動や、それに返す「夜の王」の手が、目に焼き付いて離れないほど美しいです。小説なのに映画を見ているかのように情景が浮かんでくる、引き込まれる作風です。読みやすさに反して読後感がとても充実していてお勧めです。
第1位.紅玉いづき「サエズリ図書館のワルツさん」
紅玉いづき「サエズリ図書館のワルツさん」がおすすめの理由
木から作られた本が非常に珍しく高価なものとなった、近未来の「図書館」の司書・割津(ワルツ)さんを中心に、広く大きなようで、狭く小さな世界を描く短編集です。穏やかで、誰にでも優しいけれど、「本」へ捧げる想いは誰よりも強く、執着を向けるのもまた「本」とそれにまつわる記憶とデータだけ、というワルツさんの人柄は、読む人によって受ける印象が全く異なります。私は彼女が得難いほど一途な女性に映りました。友人は「残酷な司書さんだね」と言っていました。そういった、感想に多様性を持たせるワルツさんの姿が、面白さの一つです。とても平凡で、私たちの隣人の一人にすぎないような人々の姿が愛おしくなります。電子書籍にはしないのですが、と利用者から投げられた疑問に対するワルツさんの「魂だけでは抱きしめられませんから」という言葉は、「本」という媒介を愛するすべての人に届いてほしいと思います。