【2019年】宇江佐真理おすすめの本ランキングTOP7
『髪結い伊三次シリーズ』や『古手屋喜十シリーズ』、『泣きの銀次シリーズ』、『神田堀八つ下がり 河岸の夕映え』など、江戸の市井に生きる人々をリアルな人間臭さとともに温かな目線で描写した作品が多く、人物の姿や声まで想像でき、知らない間に読みふけってしまう。宇江佐真理さんのおすすめの作品をランキング形式でご紹介します。
第7位.宇江佐真理「さらば深川」
宇江佐真理「さらば深川」がおすすめの理由
収録されている同タイトルの『さらば深川』では、主人公の伊三次とお文がようやく所帯を持つこととなる。お文の家や着物の世話をしていた材木商から家督を継いだ息子がお文に横恋慕したもののお文に袖にされ、逆恨みから父親が厚意で普請したお文の家の普請代を請求し、それも撥ね付けられたため逆恨みをエスカレートさせ、自分の息のかかった者に命じてお文の家に火をつけたため、お文の住んでいた家が全焼してしまう。それをきっかけに、それまでどちらから言うともなく、相思相愛のままずるずると関係を続けていた二人が所帯を持ち、伊三次の住む裏店に引っ越すこととなる。大人になるにつれ、なにか大きなきっかけがないと、なかなかそれまでの習慣を変えられなくなってしまうようになった世代には、どこかしみじみとした共感を覚える点があると思う。
第6位.宇江佐真理「さんだらぼっち」
宇江佐真理「さんだらぼっち」がおすすめの理由
『鬼の通る道』では、伊三次が小者として仕えている北町奉行所同心・不破友之進の息子である不破龍之介が、通っている手習い所の師匠であり初恋の少女の父親が、金を借りていた按摩を殺した証となる抜け道を見つけてしまう。人殺しの娘になってしまう少女の将来を案じた龍之介は、そのことを同心である父親に言えずにいたものの、自身の正義感と恋心の間で葛藤し、父の小者である伊三次に打ち明けてどうすればいいか相談する。伊三次の言葉でどうするかを決めた龍之介は、『同心の息子』として自身の正義感を選ぶ。自分の大切な人の将来を左右してしまうが、それでも正しいことを為さなければならない場面に葛藤した経験は、誰しも少なからず持っているだろう。そのときに、自分は正しい行いの方を選ぶことができるか、正義と人情の板挟みについて考えさせられる作品。
第5位.宇江佐真理「君を乗せる舟」
宇江佐真理「君を乗せる舟」がおすすめの理由
『八丁堀純情派』では、元服し奉行所に見習い同心として出仕するようになった不破龍之介改め不破龍之進が、同じ年に奉行所に上がった朋輩達とともに、夜な夜な本所界隈で芝居小屋の屋根に登って騒いだり火の見櫓に登ったりする若者の集団『本所無頼派』を自分たちの手で捕縛しようと『八丁堀純情派』を結成し、若さのままに本所無頼派を追うことに躍起になる。龍之進や朋輩たちの若さゆえの勢いと向こう見ずな行動はまさに冒険譚というにふさわしく、童心に返ってワクワクしながら読み進めることができる作品である。『君を乗せる舟』では、『鬼の通る道』で1人になってしまった手習い所の師匠の娘・あぐりが祝言をあげる。舟で嫁ぎ先に向かう初恋の人を見送る龍之進の切なくも凛とした心のうちに、読んでいるこちらも胸を締め付けられるような気持ちになる。
第4位.宇江佐真理「名もなき日々を」
宇江佐真理「名もなき日々を」がおすすめの理由
『手妻師』では、浅草・奥山の見世物小屋の座元が殺され、その下手人がその小屋に所属している近頃売出し中の人気手妻師・花川戸鶴之助ではないかと噂が立つ。その座元はたいへんな吝嗇家で、他の座員からも恨みを買っていたため、結局は鶴之助含め複数の座員が共謀して行われた殺人であったが、捜査の段階で鶴之助に疑いの目が向けられたとき、鶴之助の祖母と言われる女性・おりさは頑なに「鶴之助はやっていない」と言い張る。鶴之助は本当はおりさの息子であり、真実を知っていても我が子を守ろうとする母の姿はいつの時代であっても同じなのかもしれないと思う。余韻を残しながらも安堵できる不思議なラストの感覚がくせになる。『三省院様御手留』では、蝦夷松前藩の上屋敷から下屋敷に移った茜が、屋敷の主・三省院鶴子のもとで上屋敷での抑圧とお家騒動から解放され、幼馴染の伊与太の言葉を糧に務めに励むさまが見ていてほのぼのとするし、清々しい気持ちになる。
第3位.宇江佐真理「擬宝珠のある橋」
宇江佐真理「擬宝珠のある橋」がおすすめの理由
タイトルにもなっている『擬宝珠のある橋』では、昔の知り合い・お鉄の元舅の生きる張りを取り戻す算段をすることになった伊三次が、手助けしている姉の亭主の髪結床『梅床』で偶然お鉄の元舅の髪を結うことになり、その際にお鉄の元舅がかつて『いちろ庵』という蕎麦屋を営んでいたことを確認する。彼に「もう一度、今度は夜鳴き蕎麦屋の屋台をやってみてはどうか」と話したことがきっかけで、お鉄の元舅はお鉄の息子たちに造ってもらった屋台で夜鳴き蕎麦屋を始める。お鉄の元舅が生きる張りを取り戻して生き生きと蕎麦を作る様子と、お鉄の元舅の名がかつて伊三次が「父っつぁん」と呼び慕っていた、今は亡き不破家の下男・作蔵と同じ名であることに「父っつぁんのお導きかもしれない」と伊三次が思いを馳せ、帰り際に「父っつぁん、うまかったぜ」と呼びかけるところが胸に響く。
第2位.宇江佐真理「紫紺のつばめ」
宇江佐真理「紫紺のつばめ」がおすすめの理由
『ひで』では、伊三次の幼馴染で料理茶屋で板前をしていたはずの日出吉が、伊三次の客である大工の『山丁』の仕事場にいることから始まる。山丁の下の娘・おみよと所帯を持った日出吉だったが、山丁の棟梁である山屋丁兵衛から「娘と所帯を持つなら大工でなければだめだ」と言われ、愛するおみよのために大工になったという。修行を一からやり直す辛さに加え、慣れない大工仕事で身も心も疲れ果てた日出吉を見て、伊三次は丁兵衛の仕打ちに憤慨する。祭りを目前に控えたある日、日出吉は背中に雷神の彫り物を入れ、その彫り物を背負って神輿を担ぐことを楽しみにしていた。その日出吉ががっくりと肩を落として歩く姿を見た伊三次は、日出吉に声をかけるが、別れたその日から幾日も経たない間に、日出吉が血尿を出して倒れてしまう。やり場のない怒りで丁兵衛に啖呵を切ったときの伊三次の心のうちや、その後警備をしていた祭りの宵宮で神輿を担ぐ男衆の中に、いるはずのない姿を見つけてその背中を追い続ける伊三次の友を思う心と物語の結末に、胸が詰まる。
第1位.宇江佐真理「竃河岸」
宇江佐真理「竃河岸」がおすすめの理由
タイトルにもなっている『竃河岸』では、かつて『本所無頼派』の1人で旗本の息子だった薬師寺次郎衛が妻とともに営む駄菓子屋「よいこや」に、不破龍之進とその義理の弟で部下である笹岡小平太が訪れる。『髪結い伊三次シリーズ』最終巻となるこの本で、少年漫画が好きな人ならばきっと好きになる展開になる。かつて龍之進達『八丁堀純情派』の面々が躍起になって捕縛しようとしたものの、結局捕まえることのできなかった「悪党」である次郎衛に、龍之進は引退する父の小者に代わって竃河岸界隈を預かる御用聞きとして、自身の小者として白羽の矢を立てたのだ。かつて敵対していた二人が、年月を経てお互い大人になり、その間に様々な経験をして価値観や人生観が変わったり、経験値を積んだりした後に再び出会い、いろいろの話をして認め合っていくという展開には、どうしても胸が熱くなる。