【2019年】花村萬月おすすめの本ランキングTOP7
九十年代後半からゼロ年代までの間、私の中でスターだった作家。最近のものは読んでいないがほとんどの作品をむさぼるように読んだ。あの時代の閉塞した雰囲気にぴったりの作品。直木賞を取るものだと思っていたら芥川賞を取ってしまって驚いた。作品の質には当たり外れがある。花村萬月さんのおすすめの作品をランキング形式でご紹介します。
第7位.花村萬月「なで肩の狐」
花村萬月「なで肩の狐」がおすすめの理由
初期の長編作品で、形式はハードボイルドです。他にも沢山初期作品をランキングにランキングに入れたかったのですが、何とか無理してこの作品だけに絞りました。進む方法がもう定まっている感じです。極限の愛と暴力やロードムービー的な展開などはこの作品にもあります。以下あらすじです。足を洗った元ヤクザである主人公は、今では幼なじみの女性と飲み屋をやっている。そこに友人の現役のヤクザから現金を預かる。狐たちは襲われる。幼なじみとその娘、元十両の蒼の海を連れて北の土地へ向かう。友人であったヤクザの最後の願いを叶えるため、主人公が奮闘する。この作品に出てくる蒼の海はかわいいです。仮にも十両になっているのに、異常に気が弱いです完全な善人であり、読んでいるとほっとします。主人公の呵責のない暴力と極端な人格がかえって目立ちます。
第6位.花村萬月「ブルース」
花村萬月「ブルース」がおすすめの理由
花村萬月さんの名前を知った最初の作品。読んだのはかなり後になりますが、有名な書評家がこぞって褒めており、ベストミステリにも選ばれていました。タイトルはブルースとなっていますが「ブルーズ」にして欲しかった。青っぽい想定がとても素敵です。ストーリーは、激しい時化のなかのタンカーで友人が死んだ。友人を死に至らしめた原因は徳山というヤクザの執拗ないたぶりにあった。同性愛者の徳山は主人公を愛していた。さび付いていたギタリストの主人公が再生する物語です。暴力とともに音楽がモチーフになっています。花村萬月の作品には常に定番の要素が出てきます。今回は主人公をギタリストにしたこともあり、音楽に関する記述がかなり多いです。この作品はどこか若くこなれていないところがあります。しかしそのこなれていないところが作品の魅力になっています。
第5位.花村萬月「二進法の犬」
花村萬月「二進法の犬」がおすすめの理由
大泣きしてしまったのを覚えています。かなり覚悟させられる一冊です。なんせ分厚いから、鞄に入れてもスペースは取ります。本自体の分厚さも凄いから持つのも大変です。外で読むのにも結構苦労しました。読むときも、この作品も同じような要素で語られるのか、もういい加減飽きてきたぞ、といった感情にかられます。この作品はベストミステリに選ばれていました。背中を押される感じで、飽きてきたのに分厚い本のページをめくり始めると止まらなくなりました。ストーリーは家庭教師の青年がヤクザの娘を教えるようになると言う話です。主人公はろくでなしと言った体ですが、あまり暴力と縁がないタイプの人間です。ストーリーが進むとスイッチがONになってしまうところまで行き着きます。ストーリーが進むと大きな喪失が心臓をわしづかみにします。たとえ分厚くても臆さず読むべきだと思います。
第4位.花村萬月「皆月」
花村萬月「皆月」がおすすめの理由
吉川英治文学新人賞を受賞している作品です。癖もない非常に読みやすい作品です。とは言っても性愛と暴力は沢山出てきます。万人向けではありませんが、優れた小説だと言うことは間違いありません。主人公は中年サラリーマンです。技術者でコンピューターを趣味にしています。美しい妻がおり、彼女のためにマイホーム貯金をせっせとしているところです。ある日置き手紙を残し、妻が消えます。「みんな月でした」と言う内容。お金はなくなっていました。主人公は何もかも嫌になりサラリーマンとしての生活から戦線離脱します。そこから復活するところがこの本の主題です。この物語の中で一番大きいのは義弟の存在です。いわゆる半グレをしています。にわかには理解しがたい倫理観をしています。私にも理解不能です。もう一人はソープ嬢の女の子です。現実にはいそうにない、ダメなオヤジを好きになってくれる都合の良い女の子です。物語は途中からロードムービーのようになります。この作品はマイルドな感じでおすすめです。人が死んだりしますが、マイルドです。
第3位.花村萬月「笑う山崎」
花村萬月「笑う山崎」がおすすめの理由
山崎というヤクザが出てくる中編集です。ある文芸評論家がこの作品をとても高く評価していました。山崎というキャラクターの類い希なる複雑さについて、色々記述がありました。花村萬月は使い古されたモチーフをいつも使います。それはセックスとか暴力とかのとてもありふれたもので、普通の作家が使っても飽き飽きするような効果しかもたらさないと言うことです。今回も暴力とセックスが出てきますが、陳腐さなどは感じさせません。印象は鮮烈です。たいていの人は暴力を嫌いだと思います。自分に振るわれることを考えると恐ろしいからです。しかし嫌だけどどうしても目をそらすことが出来ない。そういう引力を感じる本です。もし山崎が実際にいたら、半径10キロ以内には絶対入りたくないです。山崎は複雑は複雑ですが、とにかく強烈な暴力性ばかりが記憶に残りました。
第2位.花村萬月「風転」
花村萬月「風転」がおすすめの理由
文庫本で上中下巻です。この小説が三冊になってしまった理由は、担当編集者に視点を統一して書くことを提案されたからだそうです。風に転ぶ、と言う字が題名になっていますが、もちろん瘋癲を意識した小説です。出てくる人もろくでなしな人ばかりです。他の小説と同様に花村萬月さんの実体験が元になった話です。そのせいかとんでもないハプニングが起こりました。花村さんの家が本物のヤクザに銃撃されたのです。私は以前からの読者ですが、銃撃事件で興味を持った人も周囲にいました。この本はとんでもない形でお墨付きをもらったのです。ストーリーは鬱屈を抱えた少年が、バイク旅をする話です。私がバイクに乗ることはありませんが、読んでいて本当に気持ちが良さそうなんです。花村作品には旅のシーンが沢山出てきますが、これほどの爽快さを覚えるバイク旅はありません。旅が好きな人に特にお勧め。バイクにはひかれることはあっても乗らない人達にも。
第1位.花村萬月「ぢんぢんぢん」
花村萬月「ぢんぢんぢん」がおすすめの理由
二冊の文庫本からなります。分量は多いですが一瞬で読み終わります。花村萬月さんの作品の中で一番好きといえる作品です。冒頭が良いんですよ、冒頭が。主人公が訳の分からないことを宣言しながら、全然悪いことをしていないカップルのところに突撃していくところです。はっきりしているけど訳の分からないやつが暴れ回る気持ち悪さ。鬱屈を晴らすつもりでしょうが、そんなんで発散しても鬱屈はさらに募るだけですから。そしてダメ人間の主人公がスタートするのはヒモ修行です。全くろくでもないと思います。この小説で一番外せないのは敏腕女性編集者です。彼女は要望に恵まれていない人なのですが、作品の中で言い知れない魅力を放っています。この小説のラストも少し乱暴な感じです。賛否分かれるとは思います。私に言わせれば、物語は最初と途中が面白ければかまわないのです。