【2019年】中村文則おすすめの本ランキングTOP7
情景の表現がとても綺麗で、緊迫した空気や登場人物の感情などを実際にその場にいるかのように感じることができます。死刑や犯罪、重い病気や宗教などのなかなか一般の方が触れられないことがとても深く描かれていて、考えさせられるところが中村さん作品を気に入った理由です。中村文則さんのおすすめの作品をランキング形式でご紹介します。
第7位.中村文則「教団X」
中村文則「教団X」がおすすめの理由
宗教や戦争など非日常であるはずのものが突然目の前に現れたとしたら。仲ののよかった人間が突如としてどこかに姿を消してしまったら。それがとあるカルト教団と関わっているとしたら。現代社会の闇を風刺しながら、同時に光も描かれていて、難しそうな内容のわりに読みやすいです。カルト教団の「絶対的な悪の教祖」とも呼ばれる男と、住宅地で宗教の思想や最新の科学などを説く高齢の教祖・松尾。この二人も闇と光の対比として描かれています。特に、この松尾が語るブッダや宇宙の原子の話などが、ユーモアが交えられていてとても面白いです。深く考えさせられる内容なのに笑える場面もあり、中村さんの文章のうまさが際立っています。テロのシーンや暗い過去の回想シーンは一転して緊張感が読み手にしっかりと伝わって来て、そこで改めて社会の闇と光である戦争と平和、非日常と日常は紙一重のものであると実感させられます。
第6位.中村文則「掏摸」
中村文則「掏摸」がおすすめの理由
三つの仕事を頼まれた主人公、失敗すれば殺され、逃げれば親しくしていた子供を殺される。脅してきた依頼主は裏社会に生きる男・木崎。そして主人公は、裕福そうな人間を、持ち物や行動から見抜き、大金が入った財布を華麗に盗む。その描写が冒頭からあり、もう読み手の私たちがまるでスリ師の立場になったような緊張感が伝わります。また、絶対的な悪と強さと威圧感のある木崎は中村さんの著書の登場人物屈指の悪役で、天才スリ師の主人公にとてつもないプレッシャーを与えます。木崎と主人公が対峙するシーンでは、木崎は「お前は、運命を信じるか?」と言い、それはお前の運命を握った俺は神だとでもいうように聞こえて運命というものについて考えさせられます。これが実は伏線となっていて、ラストシーンで暴かれた時とてもすっきりはっきりとします。
第5位.中村文則「去年の冬、君と別れ」
中村文則「去年の冬、君と別れ」がおすすめの理由
この作品は、昨年映画化もされ、人気俳優が主演を務めるなどし中村さんの作品の中でもかなり人気のある作品に思えます。フリーライターの主人公は、木原坂というカメラマンが撮影中に火事を起こしそのときモデルをしていた盲目の女・吉岡が命を落とした事件について取材をします。天才カメラマンとも言われた木原坂を取材するうちに、主人公は彼に引き込まれてゆくのですが、同時に読者も彼に引き込まれてゆきます。繊細で不安定で謎多き木原坂を追ううちに、主人公は新たな事件に巻き込まれてゆきますが、その事件が彼にも読者にもあまりにも意外な展開です。また、この物語は最後の一文に全てが込められていると思います。しっかりと伏線を回収された最後の一文には、今までどんな本にも感じたことのなかったある種の感動があるように思えます。何度読んでも面白い、名作です。
第4位.中村文則「土の中の子供」
中村文則「土の中の子供」がおすすめの理由
若いタクシードライバーの主人公の、なかなか鬱々とした物語で、ページ数はとても少ないですが深く考えさせられる小説です。主に虐待について描かれている作品で、虐待の果てにあるものや人間の最低ラインはどこなのか、その圧倒的暴力に施設で育った時代の彼が立ち向かいます。近年増えて来た、虐待のニュース、そして殺される罪のない子供たち。そんな子供達の一部だった彼は、理不尽な親に決め付けられた最低の生活が日常だと思っていましたが、普通を知った時に改めて自分がいかにかわいそうだったのかを知ります。それだけ傷ついても周りの優しさに目を向けて、そんな暗い過去に別れを告げようと前に進みます。彼が、死に向かってゆく鬱々とした雰囲気の冒頭から、虐待の過去の恐怖に立ち向かってゆく姿は、読者にも前に進む勇気を持たせてくれます。
第3位.中村文則「悪意の手記」
中村文則「悪意の手記」がおすすめの理由
死に至る思い病気にかかったが、奇跡的に一命を取り留めた男は、生きる意味がわからなくなってしまい生きているものすべてを嫌悪し始めます。その結果、彼は親友を殺してしまう。しかし彼は人殺しのまま生きる決意をします。主人公はきっと、もうすぐ死ぬであろう自分を無意識に守って、「悪意に飲まれて」親友を殺害したのだろうと思うと、人を殺す方が絶対的に悪いと言い切れる気がしなくなってきてしないます。彼は生きることを自分の人生を見届けることと表しますが、それがまたなんだか悲しく聞こえて来ます。「人はなぜ人を殺してはならないのか」という当たり前のことを改めて問題提起するこの作品は、ページ数が少ないわりにとても深く一度読んだだけでは理解が難しい小説です。ですが、その分とても面白いので中村さんの作品の中でもとてもオススメの本です。
第2位.中村文則「銃」
中村文則「銃」がおすすめの理由
銃を拾った大学生の主人公・西川は、使う気は無かったが銃に魅入られてそれを家に持ち帰ります。彼は数日後ニュースで、拳銃で撃たれた男の死体が見つかったこと、そして殺害に使われた凶器とされる銃が見つかっていないということを知ります。それでも彼は拳銃に執着してしまって手放せなくなり、ついには外に持ち歩くようにまでなってしまいます。彼がだんだんと拳銃に惹かれ呑まれていってしまうのが狂気的に描かれていて、またそれがバレてしまわないかと読み手の私たちまでハラハラしてしまいます。初めは撃つ気はなかった彼の心情が変化してゆく様子はとても臨場感があり、また他の作品よりも「衝動」が描かれているからなのかスピード感があります。中村さんのデビュー作で、映画化もされているらしく、読んでみると人気の理由がよくわかります。
第1位.中村文則「何もかも憂鬱な夜に」
中村文則「何もかも憂鬱な夜に」がおすすめの理由
私が初めて読んだ中村さんの作品で、冒頭は何も思っていませんでしたがだんだん小説にのめりこめて、読後には大きな衝撃と余韻が残っていたことを覚えています。死刑囚の男と、それを見張る男。命とその人間は同じようで違うもので、たとえ人を殺しても命は悪くなくてお前が悪いだけだ、というのが心に残っています。読後に明るい気持ちや暖かい気持ちになれる本ではありませんが、人間が本来しっかりと向き合わなければならない死や欲などについて描かれていて、一度は読むべき本だと思います。もちろん何度読んでも考えさせられ、その度にまた別のことに気づかされます。いずれは必ずたどり着く「死」について、またそれを考えることによって「生」をどう生きるかを考えさせられました。1日1日を大切に過ごさないといけないと思えるという意味では、ただ鬱々としているわけではなく、明るい方向に向かってゆくためでもあると思いました。