ジョナサン・ケラーマンおすすめの本ランキングTOP7
ジョナサン・ケラーマンはアメリカの小説家です。彼はカリフォルニア大学ロサンゼルス校を卒業後、南カリフォルニア大学で心理学の博士号を取得し、現在は南カリフォルニア大学で小児科の臨床の教授をしています。彼が書く作品はほとんど、自身の知識と体験を生かしたものです。「アレックス・デラウェア」を主人公とするシリーズでは、彼のことを投影したように、アレックスが小児臨床心理医として事件を推理し、解決へ導きます。子どもが抱える闇をゆっくりとひも解くようにして、事件の全容を読み手に伝えるその作風は、現代社会の弱者やマイノリティを救うための知恵と優しさが込められているように感じます。ジョナサン・ケラーマンさんのおすすめの作品をランキング形式でご紹介します。
第7位.ジョナサン・ケラーマン「大きな枝が折れる時」
ジョナサン・ケラーマン「大きな枝が折れる時」がおすすめの理由
アレックスが登場する「アレックス・デラウェアシリーズ」の記念すべき、第1作目の作品です。小児専門精神科医であるアレックス・デラウェアは若い頃から人一倍働き、何本もの論文を書いていましたが、ある事件の被害者を治療してからというもの、自分の仕事に嫌気がさし、半ばリタイアしたような生活を送っていました。そんな中、友人で殺人課の刑事マイロから、サンセット・ブルヴァードの高級アパートメントで、精神科医と女が惨殺された殺人事件の唯一の目撃者である少女・メロディを診察するよう依頼されます。メロディは精神的な疾患を抱えており、また極度に怯えているため、見ていたはずの事件のあらましを話すことができません。メロディは静かな生活を送れるようにと、精神科医から薬漬けにされていたのでした。アレックスは被害者の精神科医ハンドラーと、一緒にいた女性グティエレスについて調べていくうち、とんでもない事件に巻き込まれていきます。この作品は、児童虐待という重いテーマでありながら、登場人物の会話が軽妙であり、テンポのいい展開が、その重苦しい雰囲気を和らげています。またマイロがゲイであることや、芸術家の恋人ロビンの描写も魅力的。それぞれにしっかりとした背景を持つキャラクターたちは光と影の部分を抱え、彫りの深い人ばかりです。精神科医で空手の使い手というアレックスの設定も、なかなか面白いと感じます。
第6位.ジョナサン・ケラーマン「グラスキャニオン」
ジョナサン・ケラーマン「グラスキャニオン」がおすすめの理由
ある日の明け方、眠っているアレックスの部屋で電話が鳴ります。彼が受話器を取ると、「助けて!」という声が聞こえてきました。電話の相手は、ジェイミー・キャドマスという、かつてアレックスが診察したことがある天才児と呼ばれる少年でした。電話でのジェイミーは「俺は地獄にいるんだ、ガラスの峡谷だ。あいつらは俺を殺そうとしている」と言い、電話は切れてしまいました。その錯乱ぶりにアレックスは危機を感じ、ジェイミーが入院している精神病院まで急行しますが、すでに彼は脱走したあとでした。その後ジェイミーはあるホモセクシュアルの銀行家の邸宅で、二人の死体を前に血まみれのナイフを握っているところを発見されますが、アレックスは彼の家庭環境とこれまでの彼の言動から、釈然としないものを感じ、調査に乗り出すのです。この作品は、アレックスシリーズの第3作目です。このシリーズの中でも、特にミステリーとして完成度が高い一編と言われています。真夜中の電話、意味不明の言葉、そして天才と言われていたかつての患者。見事な出だしで、読者を引き込みます。この冒頭からのスリリングな展開や、小出しにされる謎解きが、細部まで計算されつくしたミステリーであると感じます。
第5位.ジョナサン・ケラーマン「サイレントパートナー」
ジョナサン・ケラーマン「サイレントパートナー」がおすすめの理由
この作品は、アレックスが活躍するシリーズの第4作目になります。主人公アレックスは、かつての恋人のシャロンに再会しますが、彼女はそのあと拳銃で自殺してしまいます。アレックスにはすでにロビンという新しい恋人がおり、シャロンとよりを戻す気は全くありませんでしたが、シャロンの訃報を聞き、なんとなく罪悪感にとらわれます。そんな中、アレックスはしばらく疎遠だったシャロンの周辺で何があったか調べ始めますが、その過程で、自分があまりにも彼女を知らなかったと思い知ることになるのです。シャロンもまた精神医学を学ぶカウンセラーの卵でしたが、恋人だった期間にも、彼女は決してアレックスに心を開くことはありませんでした。ベッドを共にしても泊っていくことはなく、彼女の家に招かれたこともなかったのです。アレックスが調べていくうち、障害者の妹のために、シャロンが裏ビデオに出演していたことを突き止めますが、アレックスには違和感しかありません。シャロンは自分の周囲の人すべてにうそをついており、彼女の人格を虚構のものにしていたのです。この作品は人格障害というある種の病にテーマを置いています。精神科医という経験からも、またかつての恋人だったという立場からも、アレックスは大変苦い症例を目の当たりにし、読者にも深刻な恐ろしさを感じさせるのです。
第4位.ジョナサン・ケラーマン「クリニック」
ジョナサン・ケラーマン「クリニック」がおすすめの理由
この作品では、ロサンジェルスやラスベガスなどのカリフォルニア州で、違法な医療行為として禁止されている、中絶を取り扱っています。あるフェミニストの美人心理学者が惨殺される事件が起こります。彼女はベストセラー作家で、テレビでのトークショーの人気者でもあります。そんな女性が殺されたことで、利益を得るのは一体誰なのか。彼女が受け取るはずだった多額の著書の印税を相続することになる年の離れた夫、ナイーブな性的問題を公に晒された大学の生徒たち、テレビの討論会で彼女に異常なほどの反発を示した謎のコメンテーター。多くの容疑者が登場します。そんな中、アレックスが呼び出されることになるのです。友人でもある殺人課の刑事・マイロとともに調査に乗り出したところ、訳アリの中絶医にたどり着きます。被害者はそのクリニックである仕事を請け負っていたようでした。患者に知らされないまま、中絶以外の医療行為が行われていたのです。この作品は、ケラーマンの医者としての知識がしっかりと裏打ちされており、読みごたえがあります。ハラハラドキドキというよりも、ストーリーはどちらかと言うと淡々と進むので、真犯人の目星も割と早い段階で付きますが、そこはかとない恐怖を全編に感じ、ホラーのテイストも秘めています。
第3位.ジョナサン・ケラーマン「イノセンス 女性刑事ペトラ」
ジョナサン・ケラーマン「イノセンス 女性刑事ペトラ」がおすすめの理由
この作品はアレックスシリーズとは違う、番外編とも言えるものです。しかしのちのアレックスシリーズに登場する人物が、初お目見えするということで必見です。母と二人でトレーラーに住んでいるウィリアム・ブラッドリー・ストレートという12歳の少年は、生活保護を受けながらも酒に溺れ、薬物の中毒になっていた母が連れ込んだボーイフレンドに虐待を受け、命の危険を感じて家出をします。あちこちの公園にねぐらを作り、路上生活を続けていた少年は、ある夜、公園で男が女性を惨殺する場面を目撃してしまいます。とっさに逃げ出した少年ですが、彼には次々と問題が降りかかってきます。一方、殺された女性の事件を担当することになったペトラ刑事は、現場近くに残されていた本や、食べ残しの食料の後を見つけて、目撃者がいたのではないかと考えました。上司からの圧力や同僚の問題を抱えながらも、ペトラは少しずつ壁を壊していきます。少年とペトラが交差するところで、事件の真相は解明されるのです。少年は危険を回避する知恵を持ち、とても賢い子でありながら、愛してくれない母親を追い求めています。誰も救ってくれない非情な事態にも、必死で生き抜こうとする健気さと誠実さに、心を打たれました。またペトラも事情を抱え、癒されない毎日を送っています。登場人物の感情の動きや生きざまが丁寧に描かれていて、とても奥行きのある作品だと感じました。
第2位.ジョナサン・ケラーマン「歪んだ果実」
ジョナサン・ケラーマン「歪んだ果実」がおすすめの理由
アレックスシリーズの第2作目の作品です。前作「大きな枝が折れる時」の事件から15か月が経った頃、小児臨床心理医アレックス・デラウェアの前に再び事件が起こります。彼が話し相手になっていた5歳のがん患者ウディ・スウォープが、病院の無菌室から誘拐されてしまったのです。そればかりではなく、ウディの家族全員が、忽然と姿を消してしまいました。ウディの一家の捜索を始めたアレックス。そこで彼は一家の悲劇を知ることになります。一家はとある片田舎に住んでしましたが、その町には周囲の住民も詳しくは知らない、謎の宗教団体が存在していました。その宗教団体が、一家の行方不明に関わっているのではないか、との疑惑が出てきます。アレックスはがんで苦しんでいる少年を何とか見つけたいとの思いから、マイロ刑事に協力を仰ぎ自身でも捜索を開始します。しかし消えた一家の両親が殺害されて発見されるのです。少年はどこにいるのか?果たして生きているのか?そんな中で一家に隠された秘密が明らかになっていきます。前作では人生に疲れ、排他的な考え方をしていたアレックスですが、今作では人間味が増したように感じます。命を狙われるような危険も顧みず、がんの少年を見つけることに奔走するアレックス。彼は決して世捨て人になったわけではないことを、読者は知るのです。
第1位.ジョナサン・ケラーマン「殺人劇場」
ジョナサン・ケラーマン「殺人劇場」がおすすめの理由
この作品は、アレックスシリーズではありません。完全に別の内容の一話完結ものとして仕上がっています。エルサレムの丘で、アラブ人らしい少女の全裸死体が見つかります。彼女の体は切り刻まれ、入念に洗い浄められていました。一週間後同じように、もうひとりの少女の惨殺死体が発見されます。辣腕警部ジャラヴィと4人の部下は、全く手掛りを残さないこの犯人を、執拗に追いかけます。そんな中、第三の犠牲者が発見されてしまうのです。舞台はイスラエル。主人公のシャラヴィ警部はイエメン系ユダヤ人ですが、その部下たちも巨漢の中国系ユダヤ人、アラブ系の若手刑事など、個性の強い人ばかり。作品の前半は、彼らのキャラクター描写にページを割いているので、展開が遅いと感じるかもしれません。しかし第三の犠牲者が見つかって、シャラヴィ警部がエルサレム郊外に建つ国連が運営する病院「アメリア・カトリーヌ病院」が関係していると考え、容疑者を数人に絞ったところからテンポが速くなります。そんな中シャラヴィ警部の最愛の娘が誘拐され、彼は命を懸けて娘を取り戻すため、真犯人と対峙することになるのです。実は三人の女性を殺害し、娘を誘拐した犯人は、警部が考えていた人物像とは全く違う意外な人物でした。この作品は、人種や宗教、政治的な問題をはらんでおり、単なる殺人事件を解決する内容ではありません。作者であるケラーマン本人がユダヤ人であることから、彼らの祖先が迫害された過去を背景として読み進めなければ、理解できない深い内容のものとなっています。