【2019年】辻仁成おすすめの本ランキングTOP7

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【2019年】辻仁成おすすめの本ランキングTOP7

ロックバンドのエコーズでは作詞作曲とヴォーカルを担当し、唯一無二の存在感を放っていました。とくに歌詞の世界は独特で心に突き刺さってくる言葉が多かったので、小説でも読んでみたいと感じていただけに、小説を発表されてからは夢中で読んでいます。辻仁成さんのおすすめの作品をランキング形式でご紹介します。

 

 

第7位.辻仁成「白仏」

辻仁成「白仏」がおすすめの理由

仏像を彫る仕事は辻仁成の先祖とだぶるイメージのようでしたが、読み進めていくうちに自分の祖父や周りの大人たちにも通じるような気がしてきました。どういうことか分からなくても、一心不乱に仕事に取り組む姿勢は魅力的であると同時に、近づきがたい雰囲気があります。白仏に描かれているのは集中力を発揮する天才のようにも見えますが、場所とタイミングが異なれば、とても弱弱しい人間像にも見えてくるので、どこか危ういです。エコーズの「フーリッシュゲーム」をなぜか連想してしまうのは、辻仁成の深層心理と密接だからではないでしょうか。身内に対する憧憬と批判が混在している感じもしてきます。誰かに対する反抗心と、成長するにつれて理解できていくような気分になる不思議な葛藤が、文章から瑞々しいほど漂っています。読み進めるうちに、自分とは違う性格の人を受け入れられるようになります。

 

 

第6位.辻仁成「クラウディ」

辻仁成「クラウディ」がおすすめの理由

少年であり大人でもある、一人の男が情けなくも魅力的なのは、異性の存在があるからではないでしょうか。つまり、誰でも良いのだけれども、その人に異性が側にいるのかいないのか、それこそが重要なテーマになっている気がします。亡命と言っても、国を捨てる覚悟よりも大きな愛情があればこそなのではないかと思えますし、地位や名誉を捨ててでも得たいものがあるからこその行動です。主人公は、なぜか革命や亡命にあこがれているように思えます。しかし家出をするのかと言えば、どこか中途半端なうえに、理屈っぽくて優柔不断にも感じられます。ふりかざす正義感なんて、男の情けなさそのもの。自分を鏡で見たら、こんな姿なのでしょうか。不安になってきます。不安になってくるけれども、だったら変えてやろうじゃないかと思えてきます。亡命とは、過去の自分との決別なのかもしれません。そう感じたとき、すがすがしい物語に生まれ変わります。

 

 

第5位.辻仁成「ピアニシモ」

辻仁成「ピアニシモ」がおすすめの理由

少年こそが老成した存在なのではないか、と考えさせられる小説です。たぶん成人した大人の男よりも、未完成な少年の方が仙人に近い気がします。忘れられない想い出があっても、どんどん忘れてしまえるくらいに、いまが素晴らしいのなら良いでしょう。過去にまとわりついていられるほど嬉しくて楽しい思い出があるのならば、記憶の世界に引きこもってもいいのかもしれません。けれども、そんな記憶がない人は、どうすれば良いのでしょうか。勇気を出して一歩、自分の足で歩きださなければなりません。自分の足で歩きだすというのは、自分とは異質な存在と出会うことにつながります。自分から求めて異質な存在を求めたとしたら、どうなるでしょうか。それが異性です。なんのつながりもなかった女と男が、ささやかな伝言だけで知り合うことができる世界。これはインターネットの時代にも通じる、出会いと生まれ変わりの物語です。

 

 

第4位.辻仁成「旅人の木」

辻仁成「旅人の木」がおすすめの理由

水分をたっぷり含んでいる旅人の木は、世界のどこかではなくて、自分の胸の奥に存在しているのだと気づくときに、本当の意味で男は成長できるのではないか。そんなふうに感動したのを今でも忘れられません。旅人の木は年の離れた兄を探す物語であると同時に、自分の中にある偶像としての肉親と離れるための旅の物語です。血縁だからこそ、乗り越えなければならない問題があります。他人には離せないけれども、誰もが心に秘めている問題でもあるため、こうやって小説で読むしかないのかもしれません。どうして兄を探すのか、動機に共感できるのならば素直に感動できると思います。けれども、失踪した人間を探すことに意味を見いだせない人にとっては苦痛でしかありません。しかし苦痛を感じたまま読み進めていくうちに、自分が何を言って欲しかったのかを実感します。これは、家族に言って欲しい言葉がある人に、ぜひ読んで欲しい作品です。

 

 

第3位.辻仁成「海峡の光」

辻仁成「海峡の光」がおすすめの理由

絶壁のようにそびえる刑務所の壁に対して、無力になってはいけないのだとなぜか興奮したのを覚えています。海峡は、視界に確認できる存在というよりも、心の中で感じる光の象徴ではないでしょうか。海峡の向こう側には、台地があります。見知らぬ大陸かもしれません。そこならば、自分の無実を証明してくれる神がかりな技術や制度があるのですから。誰が何と言おうと、自分の中に機軸を持っていることは、生きる強さにつながります。他者との関係は、距離が重要です。壁があって、殴り合えないからこその理想郷も存在するのでしょう。けれども、殴り合える距離にあっても、殴り合うことなく無難にやり過ごすには勇気と知恵が求められます。欲望のままに生きることが素敵なわけではありません。欲望を抑制しながら、もがき苦しむ姿こそが人間的であり、それが美しいと思えてきます。人間の美しさをモノローグと無言で表現した、得体のしれない希望に満ちている小説です。闇の中に生きていると感じている人におススメです。

 

 

第2位.辻仁成「冷静と情熱のあいだ」

辻仁成「冷静と情熱のあいだ」がおすすめの理由

日本ではない空気感が、安らぎを運んでくれます。辻仁成だけでなく、江国香織による女性視点の物語も同時進行で読めば、いっそう複層的に世界を満喫できます。男性の視点は逃げたくて仕方ない空気にあふれているので、今にも電車が発車しそうな勢いが言葉に備わっています。街にこだわらなければ、どこかに必ず居心地よく暮らせる空間を見つけることができます。もしも、今生きている環境が息苦しくて仕方ないのなら、出て行けばいい。いや、出て行かなければ。そう決意させてくれる勇気にあふれた小説ですが、けれども静かな呼吸しか聞こえてこないのです。とても焦っているはずなのに、呼吸が乱れていないように思えます。どうしてそんなにクールなのでしょうか。それは熱い心があるからです。無口な叫びと同じで、相反するものが内在しているからこそ、人は筋道を通して生きていけるのではないでしょうか。最後の最後になって、やっと和やかな性格の自分と出会えます。

 

 

第1位.辻仁成「母なる凪と父なる時化」

辻仁成「母なる凪と父なる時化」がおすすめの理由

海が好きで、しかし海が怖い、そんな人ならばピンと来るタイトルです。凪よりも時化の方が、ときには快適に感じることがあるからです。暴れ狂う海の波間に、やすらぎのリズムが漂っています。だって、ぼくたちは狂っているわけじゃないですか。正常だよと意地を張れば、いじめられてしまいますよ。違うものは違うのですから、異質な存在のままで生きていきましょう。両親は、あなたにフツウに生きてほしいと望みますが、それは洗脳です。あなたは、あなたのままでいい、いえ、あなたのままでなければ、いつか犯罪者になってしまうかもしれませんよ。静寂と騒動と言い換えても良いのですが、凪も時化もどちらか一方だけでは精神と肉体のバランスが崩れてしまいます。母なる凪とは、ガールフレンドと愛し合う時の自分の鼓動であり、父なる時化とは自分が親になることを意識したときの心臓の躍動です。もっと生きていたいよと、と願ってしまう小説です。いまでも大切にしている一冊です。

 

 

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