三島由紀夫おすすめの本ランキングTOP7
三島由紀夫の文章はとにかく上品で魅力的。日本文学の中でも文章の美しさが本当に飛びぬけていて、よどみのない文章の流れといい、本当に素晴らしいです。作品を読んでいると日本に生まれてよかったと心底感謝できることがしばしばあります。三島由紀夫さんのおすすめの作品をランキング形式でご紹介します。
第7位.三島由紀夫「仮面の告白」
三島由紀夫「仮面の告白」がおすすめの理由
同性に対する情欲に苦しむ自叙伝的小説といわれているようですが、男が女を愛することが普通であり男が男を愛することは普通ではないと感じながらも、一般的な「普通」を装うことは彼にとっては普通であり、女を全く愛せないというわけでもない。受け入れることなく彷徨い続ける精神状態というのは物凄く辛いのだろうと感じました。近江との恋が美しいのは、そこに混じり気のない純粋な憧憬があったからですが、園子との疑似恋愛を通じて自問自答し、葛藤する中盤の面白さといったらもう。読者をぐいぐい引きこみます。こじらせた自意識もここまでいけば天晴れです。また、男色を描きながらじめじめとした陰湿なところがなく、まるでギリシャ彫刻のように隆々として美しいのは三島の筆のなせる技なのでしょう。処女作にしてまさしく、三島由紀夫の半生を文学として具現化した告白小説のようだと感じました。
第6位.三島由紀夫「潮騒」
三島由紀夫「潮騒」がおすすめの理由
三島由紀夫らしい純愛ながら、三島由紀夫らしからぬ爽快な文章でした。歌島の豊かな自然の美しさ、海を生きるもの達の無骨さ、一方で厳しく無情な海の力。さらさらと読み進められる平易な文章に助けられて一気読みしてしまいました。勝手に悲恋や苦しい障害の話だと思い読み始めましたが、親の反対という単純明快な障害に阻まれつつも最後はみんなに祝福される終わり方で気持ちがよかったです。何度か印象的に使われる「潮騒」という言葉が、どれも同じ言葉なのに、違う音がするのです。官能的な女性の表現の美しさ、フレーズ選びの妙、そしてなんといっても爽やかで透明で爽快な純愛物語に胸を撃たれました。人間の感情や行動と、それを取り巻く自然とは、渾然一体であると感じされられます。こんなに飾り気ない恋心を、緻密にしなやかに美しくドラマチックに描き上げる三島の文才ぶりは奇跡。
第5位.三島由紀夫「金閣寺」
三島由紀夫「金閣寺」がおすすめの理由
実際にあった金閣寺放火事件を犯人目線で三島由紀夫なりの解釈をした本作。まず金閣寺を始め、神社仏閣や京都の風景の描写が秀逸で、煌びやかで淑やかな日本の美の表現は流石だなと感じました。溝口が金閣に憧れ執着していく姿は狂気的ではあるけれど当然なことであって、他の作品でも三島は度々「瞬間の美しさ」について描いていましたが、美しいものは一瞬であるべきという考えを覆すのが正に金閣であり、時や人が変わっても幾年も変わらずあり続ける美というのは、幾年も醜いまま生きる溝口にとって、嫉妬する存在であり、絶対的に手の届かない存在であったのだろうと思います。主人公の溝口と柏木は、三島の内部の対話のようにも感じました。作家という人種は、物事のとらえ方を、本当に色んな角度で、深度で、彩度で捉えるのだなぁと。切り離せない美と生の三島由紀夫は私は好きです。
第4位.三島由紀夫「奔馬」
三島由紀夫「奔馬」がおすすめの理由
「春の雪」に続く輪廻転生を主題とした長編の第2巻。本作では主にテロリストの少年の生き様を描いています。本作も三島由紀夫らしい美しい文章が散りばめられていますが、個人的な印象として「春の雪」は豪華絢爛な桜色や雪の純白や、木々の新緑など艶やかな美を感じ、「奔馬」では火焔や血の深紅、純粋で真っ直ぐな心の青など、血生臭く青い青春の美を感じました。個人的に神話も好み宇気比なども理解できたので、神風連史話などが挟まれていることも面白かったです。三島由紀夫もこの後事件を起こしますが、とりわけ勲に対しては本人の思想を強く投影し、純粋な青い心で現実を生きている大人と戦いたいという気持ちが強かったのではないかと感じました。各巻において、それぞれ個性の違う人間の美しい一瞬を切り取って描かれており、三島由紀夫の文才には感服するばかりです。
第3位.三島由紀夫「暁の寺」
三島由紀夫「暁の寺」がおすすめの理由
解説にもありますが、正に起承転結の「転」である本作は、タイ・インドから物語が始まり、三島由紀夫の思う輪廻転生の核について様々な形で描かれていました。前半のクライマックスである日米の開戦では、三島がこの瞬間を以て日本の精神らしきものの死を予感していることがよくわかります。弁護士の本田を通じて、三島は日本を弔っているのかと。それだけに戦後のどさくさで巨万の富を得た本田を描く後半は辛いです。この空虚さに、仏教の根本問題、すなわち「我を否定し、したがって霊魂の存在を否定している一方で、前世のカルマによる輪廻転生もあるのだとしたら、転生しているものは一体なにものなのか」という問いについての考察が絡み合うのです。途中、懐かしい人々が登場し、ほっとする場面もあったものの、フィナーレは怒涛の展開に息をつく暇もなく圧倒されました。三島すごすぎです。
第2位.三島由紀夫「天人五衰」
三島由紀夫「天人五衰」がおすすめの理由
輪廻転生を主題とした長編の最終巻。恋に生きた清顕、信念に生きた勲、女を欲した月光姫と、これまで見られる受け身側であったのに対し、本作で生まれ変わりとされる透は見る側として描かれています。第3巻まで美しいものは死ぬべきということが幾度も主張されたのち、20歳で死ぬ=自分は美しい天才である、の方程式が、透の自殺の失敗によって、彼が信じてきた神秘性を瞬時に失う描写は、彼は清顕からの輪廻転生の偽物であると強く主張しているように感じました。最後、本田が全ては夢か幻だったのか?と唖然とするくだりは、圧倒的な美しさと印象で突き刺さります。人生は夢のまた夢。清顕が子供時代から理性と知識のみで生きようとした本田の追い続けた憧れであり、愛なのかと。難しくて理解できないところも多々あったものの、日本語の美しさや神道、仏教に改めて気づかされた最高の読書体験になりました。
第1位.三島由紀夫「春の雪」
三島由紀夫「春の雪」がおすすめの理由
三島由紀夫の遺作とされる、壮大な小説です。月並みな感想ですが、ただただ美しいとしか言葉が出ません。大まかにいえば、1巻ごとに輪廻転生する長篇の第1巻で、本作は貴族の恋が主軸となっています。文章の美しさに思わず一気読みしてしまいました。それも、続きが気になって焦るという気持ちではなく、あまりの優雅さに魅せられて、知らず知らずに物静かにゆっくりとページをめくる手が止まりませんでした。例えば、最初の冬の雪の中で幌を開けて雪を纏う姿は、ロマンチックでありながらくどくどしくなく決して華美ではなく、それでいて言葉少ない静けさは、かえって雪の降る日の音とも表現しづらい、深々とした音を感じて胸が詰まりました。ただの色恋物語ではなく読者に必要な情報を与える構成が秀逸で、情熱的なのに胸やけすることもなく読み進められました。