北野武監督おすすめ映画ランキング
一つ目はそのセリフの少なさである。個人的に日本映画は概してセリフ回しが不自然で不快だが、北野作品は全般的にセリフが非常に軽んじられており、無言のシーンが延々と続く事が多いのでストレスフリーで見られる。二つ目は異常に記憶に残る鮮烈なシーンが多いことである。初期の作品におけるビートたけし的なコメディシーンや明るい浜辺、それと正反対の流血の抗争と殺戮のギャップはある種の中毒を私にもたらし、何度もそのシーンだけを好んで見てしまうほどである。
第5位.北野武「みんな~やってるか!」
北野武「みんな~やってるか!」がおすすめの理由
内容自体は正直ろくな荒筋もなく、ギャグ映画を称しているが笑えるところも無し。もし金獅子賞を後に受賞していなければ全く顧みられることもない大駄作として扱われたのもよくわかる。しかしこの作品は北野武の作家史を頭に入れた上で鑑賞すべきである。当時の北野は芸人として頂点を極めていた。だがその事は彼の生き甲斐を失いかけることとなり、新たな道として映画監督の道を見いだしたのである。やがて「ソナチネ」で彼の才能は鮮やかに結晶化する。しかしそれは自身の表現すべき事がもう出尽くしたことを意味し、新たに見いだした映画監督の道の終わりを彼に感じさせ、彼は再び虚脱状態となる。その虚脱自体の表現がこの作品であると考えてみたらどうだろうか。その後彼はバイク事故を起こし死の淵をさまよった後、栄光への道を歩んでいく。作家史的には重要な作品であり、行き詰まりを見せた才能が再び羽ばたくまでの谷間の時期の精神を分析するような観点で鑑賞する作品であると言える。
第4位.北野武「3-4X10月」
北野武「3-4X10月」がおすすめの理由
脚本が北野武ではない「その男、凶暴につき」の後に作られたこの作品は、事実上初めての純粋な北野作品と言っていいだろう。最初草野球をやっている冴えない男が支離滅裂な遍歴をして、最後はなぜか自爆するという内容であり、エンタメ的には全く魅力がない。だがこの作品には後の北野作品に出てくる要素が既にほとんど存在し、まるでバラバラのパズルのように現出している。それは無言シーン、棒立ちシーン、沖縄、キタノブルー、ヤクザ、鮮烈な色の花、コメディ、暴力、死などである。のちの作品で北野は天才と言われるが、ここではその「素材」ともいうべきものが、未調理のままで放り出されており、そんな映画は中々無い。それを考慮して何度も解析するように鑑賞すると、一見意味不明な失敗作に見えるこの作品自体が何か深い意味合いを持っているかのように見え、深い解釈を促してくるような作品なのである。最後に、この作品は個々のシーンのみを切り取って見ると非常に中毒性がある。
第3位.北野武「あの夏、いちばん静かな海。」
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北野武「あの夏、いちばん静かな海。」がおすすめの理由
桑田佳祐の「稲村ジェーン」が比較的サーフィンのシーンが少なかったので「俺が本当のサーフィン映画を作ってやる」と北野が豪語して作ったというエピソードのある作品だが、その通りサーフィンのシーンに大変長い尺がとられており、大会のシーンもある。ただしそれらは遠く浜辺から望遠で映したもののみで、海のスポーツがテーマの恋愛映画なのに海上のアクション的なカットはほぼない上に、二人とも聴覚障害者という設定でセリフは無し。情感は極めて薄く、恋愛も試合も淡々と進んでいく。ジメジメとした邦画っ気が嫌いな人にはお勧めである。この作品は「HANA-BI」のプロトタイプともいえるのではなかろうか。北野映画にける「海」の意味するところを理解すると、この作品の魅力をよく堪能できるであろう。最終シーンは一見全く意味不明だが、後で様々な解説を読むとあっというような意味が隠されていて楽しい。また久石譲のサントラが非常に良くメインテーマは必ずや感動するであろう。
第2位.北野武「HANA-BI」
北野武「HANA-BI」がおすすめの理由
この作品以前の北野映画の集大成のような作品で、上映当時はこの作品によって初めて北野映画を見たという人も多かった。「アウトレイジ」に並ぶ正面玄関的な作品で、北野映画を最初から順番に見ていくと、この作品で初めてエンタメ面でも合格といえるようになり、初見でも分かるまともな演出やストーリーで構成され、さらにキャラクターでもようやく人間らしさの情感が宿ったというのを感じさせる。しかし北野映画の世界に情感が組み合わさった瞬間、見る者は世界レベルに到達する映画のすばらしさを堪能するであろう。北野自作の絵は心に懐かしいものを感じさせ、ますます感動を深める。このように絵を効果的に用いたり、花や風景の美しさと残虐なシーンの組み合わせが一層の感動を呼ぶという手法はクリエイター的にも学ぶべき物がある。音楽面では、おそらく北野映画のサントラの中では最高峰であり購入する価値がある。特に大杉漣がリハビリで絵を描くシーンは、絵の具がポツポツと垂れるような静かなピアノの音楽と組み合わさって最高の代物である。
第1位.北野武「ソナチネ」
北野武「ソナチネ」がおすすめの理由
北野映画の最初のピークとも言える作品である。荒筋だけ読むと凄惨なヤクザ映画のようだが、実際に鑑賞してみるとまるで別の映画のような印象を受ける。確かにヤクザ映画らしい残虐なシーンや銃撃戦シーンはあるが、それらの時間の長さを合計してみると5分程度しかないのでは無かろうか。それよりも圧倒的に長いのが南の海の青空や美しい砂浜、野球や相撲遊びなどのシーンであり、まるで日常系ほのぼの映画のようである。ただし一つ一つのシーンが鮮烈に印象的で、各シーンごとに一つの作品にまとめることができるような感じである。広い海を背景に砂浜で大の大人が遊びにふけるシーンは非常に神秘性を感じさせ、ヤクザ映画なのにファンタジー性が強い、実に不思議な映画である。幾度も銃声と死がこの不思議なファンタジー空間を打ち破る。しかしこの「不思議空間」は即座に再生し、むしろ銃声も死すらも内包していく。この「不思議空間」こそがこの映画の魅力で、これにハマった者は二度と抜け出せないであろう。そしてこれこそが北野映画の深奥といえるのではないかと思うのである。