【2019年】瀬尾まいこおすすめの本ランキングTOP7
優しい語り口で文章も読みやすく、サラッと読めてしまう。にもかかわらず、内容は深く重いテーマが多く、読後も考えさせられるものが多い。主人公が深刻な問題を抱えていることも多く、ともすると暗くなりがちなところを、あくまで読みやすく描いていて、いつまでも読んでいたい、この先の登場人物の人生をもう少し追いかけたい!と思わせられる作品ばかりだ。瀬尾まいこさんのおすすめの作品をランキング形式でご紹介します。
第7位.瀬尾まいこ「戸村飯店青春100連発」
瀬尾まいこ「戸村飯店青春100連発」がおすすめの理由
ある兄弟のなんてことない話なのだけれど、誰しもの心に突き刺さるような、身に覚えがあるような青春時代を思い出してむず痒い気持ちになる一冊。大阪にある戸村飯店の2人息子は正反対の性格で、兄は家を継がずに東京に出て行き、弟は店をよく手伝い、将来は店を継ぐ気でいる。家の中で孤立する兄は、弟からは要領がよくてずる賢いと思われているのだけれど、実は家族に馴染むことができずに、ずっと寂しさを抱えていたことがわかる。家族だけどノリが合わない。考え方が合わない。私自身にもそんな経験があり、悲しい思いをしたこともあるので、兄の心情にたまらなく共感してしまった。人が人生で出会うコミュニティの中で、もっとも早く、深く付き合わなければいけない家族という存在。その中でうまく馴染めない、気が合わないと思っていても、なかなか相談できる人がいなかったり、学生のうちは家を出るわけにも行かなかったりして、悩みが表に出づらいのだろう。だからこそ、なんとなく仲が悪いわけでもないのに距離がある兄弟が、最終的には少し近づけていることが微笑ましくて、嬉しくなる。家を出た兄と、店を継ごうとしている弟。それが互いにとってぴったりの進路だと思っていたのに、最後にひっくり返る展開にはびっくりしてしまった。自分にはこれが合っている、と思っていても、実は違う可能性がある。子供たちをよく見ているお父さんは素晴らしい。家族とは、という普遍的なテーマを、読みやすく描いた作品。
第6位.瀬尾まいこ「卵の緒」
瀬尾まいこ「卵の緒」がおすすめの理由
幼い頃、自分は両親と血が繋がっていないのではないか、という疑問を抱いたことのある人は多いと思う。だいたいそんなことはなくて、親とはちゃんと血が繋がっているのだけれど、この物語の主人公の小学生は、本当に母親と血が繋がっていないのである。母子家庭で、2人には血の繋がりがない。そんな不思議な家庭だけれど、血の繋がりなんて関係ないくらい、2人の愛は強い。特に、型にはまっていないお母さんの姿勢はとても素敵で、こんなお母さんになりたい!と思ってしまう。瀬尾まいこさんの作品には、ご飯の大切さを感じさせる描写が多いが、この作品ももれなく美味しそうなご飯が出てくる。特に、にんじん嫌いの人がにんじんを食べられるように作られたにんじんブレッドなるものが登場するが、どんな食べ物なのか想像するだけで食べたくて仕方がなくなってしまう。美味しいものを食べた時に、これをあの人にも食べさせたい、と思った人が、あなたにとっての大切な人。そんな素敵な教えがあふれていて、大切な人と一緒に美味しいご飯が食べたいなぁという気持ちになる。お母さんに大切な彼が出来て、3人家族になるのだけれど、こんなシュチュエーションでありがちな葛藤とかドロドロは全くなく、これからも幸せに暮らすんだろうな〜という優しい未来が想像できてしまうところが、この作品の魅力のすべてだろう。
第5位.瀬尾まいこ「温室デイズ」
瀬尾まいこ「温室デイズ」がおすすめの理由
中学校教師の経験を持つ作者ならではの、リアルな学校生活のいじめを描いた作品。生徒がガラスを割ったりする、なかなか荒れている学校が舞台。不良が力をもっているような環境にいるとき、普通に生活したい、何事もなく学校生活を送りたい、と思っているごくごく一般の生徒が取るべき態度は一つ。何事も余計なことはせずやり過ごすことだ。主人公みちるは、荒れた環境に耐えられず、思わず声を上げてしまう。そんな些細な正義感が、翌日からみちるに対する壮絶ないじめとなって跳ね返ってくる。いじめによる自殺が現実でも多発していることを知っている我々読者からすると、いじめられても学校に通い続けるみちるの姿を見るのはあまりにも辛く、もう学校なんて行かなくていい!と叫びながら読み続けた。一方、みちるの友人の優子は同じくいじめにあって学校に行けなくなり、フリースクールのようなところに通うようになる。逃げ場はある。でも、正しいことをしているのはみちるのほうなのに、どうして学校に通えなくなってしまうのだろう。自分を守るために逃げるのは大事だ。しかし、そのことによって、加害者側が制裁を受けたり、反省することは恐らくない。大人たちに守られて、大事に大事にされている義務教育の学校という場所。その温室の内部が腐っていたら、一体どう行動することが正しいのか。いじめを見ても注意できなかった経験のある私からすると、胸が苦しくなるけれど、多くの人に読んで欲しいと思う。
第4位.瀬尾まいこ「幸福な食卓」
瀬尾まいこ「幸福な食卓」がおすすめの理由
瀬尾まいこさんの作品で最も泣かされた一冊。思わず涙してしまう展開に、最初は納得がいかなかった。それくらい衝撃的だった。ネットで感想を検索すると、同じように不満を抱えている人がたくさんいて、安心したりもした。しかし、時とともにその不満すらも納得してしまった。そんな不思議な作品だ。主人公は家庭環境に問題を抱えているのだが、ちょっと変わった同級生の勉学君と付き合うことで、ちょっとずつ元気になっていく。主人公と勉学君との微笑ましいお付き合い。新聞配達のバイトを始める勉学君。よかった、ちゃんとこの主人公は幸せになれる、と確信してページをめくった瞬間…本当に瞬間的に涙が出てしまった。ページの先にはいきなり勉学君の葬式が書かれていて、どうやらバイト中の事故で亡くなったらしい。この展開は一体なんだ!?よりにもよって、辛い思いをしてきた主人公に、更なる悲劇。こんな展開必然性がない。そう思っていた。しかし、時が経つにつれて、こんな展開だからこそリアルなのだと思い始めた。事故や事件というのは突然やってくる。いい人だから死なないとか、今死ぬ時じゃないから死なない、なんていうことは、現実ではありえないのだ。どんなに幸福な時でも、不幸はやってくる。どう立ち直るか、生きている人間はどうするべきか、そんなことを考えさせられるストーリーだった。
第3位.瀬尾まいこ「あと少し、もう少し」
瀬尾まいこ「あと少し、もう少し」がおすすめの理由
中学最後の駅伝大会を舞台に、タスキをつなぐそれぞれの選手たちが各章の主人公となり、紡いでいく物語。それぞれの選手たちの視点から書かれているので、違う章では嫌なヤツに見えても、後の章ではいい人に見えたりして、人の多面性が感じられる構成が上手い。みんなそれぞれ、いじめられっ子だったり、陸上部じゃないのに駅伝メンバーになっていたり、不良だったり、頑固で嫌なヤツっぽかったり、先輩に憧れていたり。一筋縄ではいかない思いを胸に抱えているのだけれど、駅伝を走ることで彼らの中にあった辛さに、少しだけかもしれないけれど、救いがもたらされる展開は感動的だ。何より、どの章でも優等生に見えていた部長の桝井くん自身も心に問題を抱えているところがよい。顧問の上原先生が、とっても頼りなくてダメな先生かと思いきや、実は適切なアドバイスを生徒たちにかけている、というストーリーからも分かるように、人は常に場面場面で印象が違っていて、みんなほんとは色々抱えてるんだよ、と教えてくれるような一冊。
第2位.瀬尾まいこ「天国はまだ遠く」
瀬尾まいこ「天国はまだ遠く」がおすすめの理由
主人公は都会の生活に病んでしまい、田舎の民宿で自殺を図ろうとするも失敗。そのまましばらく民宿に滞在し、田舎生活を満喫するというストーリー。わざわざ民宿で睡眠薬の過剰摂取で死のうとする主人公の千鶴は、客観的に見るとかなり迷惑なヤツなのだが、今の自分と照らし合わせると、共感しまくりである。都会で働いていると、何もかもが忙しなく、常に時間に追われているような感覚に陥る時がある。そんな時に、たまーに地方に観光に行くと、のんびりした風土に感動して、そこに住みたくなってしまったりする。千鶴も、民宿の主人の田村にお世話になりながら生活するうちに、田舎暮らしもいいなぁ〜、なんて思ったりするのである。しかし、都会で生きてきた者が、そんなに生半可な覚悟で住めるほど、田舎は甘くない。千鶴は自分のいるべき場所へ最終的には帰っていく。しかし、時に優しく、時に厳しく千鶴を支えてくれた田村との交流は、これからも続いていくといいな、という余韻の残る一冊。
第1位.瀬尾まいこ「図書館の神様」
瀬尾まいこ「図書館の神様」がおすすめの理由
人生で初めて、読み終わった後に、すぐまた最初から全部読み直してしまった作品。ミステリー作品の伏線を確認するとか、そんな意味で読み直したのではない。本当に主人公のキヨと垣内君が魅力的で、もう少し2人と一緒にいたいと思ったのだ。物語は、赴任した高校で思いがけず文芸部の顧問になったキヨと、たった1人の文芸部員である垣内君の日常を描いており、特別に何か事件が起きるということはない。やる気がなく駄々をこねたりするキヨと、いつも冷静で真面目な垣内君との会話は、どちらが大人なのかわからないような面白さがあって、非常に楽しい。しかし、実は2人とも、過去に運動部で似たような挫折を経験しており、本当に行きたかった道とは別の道を歩んでいることがわかってくる。人生を左右するような挫折を経験し、理想の自分になれなかった時、人はどうするのか。挫折を引きずったまま何となく生きているキヨが、今の文芸部員としての自分を受け入れて熱心に文学に挑む垣内君との交流の中で成長していく姿は、大きなインパクトはないかもしれないけれど、とても感動的だ。