【2019年】西加奈子おすすめの本ランキングTOP7
西加奈子さんの作品は、西さん自身のあったかい人間性がにじみ出ています。そしてラストがいつもあったかいなと思います。個性が強すぎて好きになれないキャラクターもたまに出てくるけど、それでも読み終わるといつもなんだかいい気持ちになれるのです。西加奈子さんのおすすめの作品をランキング形式でご紹介します。
第7位.西加奈子「きいろいゾウ」
西加奈子「きいろいゾウ」がおすすめの理由
冒頭から前半は、著者独特の何とも言えないふわふわした語り口。都会とは音も色彩も時間の流れも全く違う環境で、何人かの登場人物とのわずかな起伏が織りなす日常が描かれます。もしかして本作はこのままちょっと変わった日常を描くのかと思いきや、後半からは風雲急を告げます。物語に散りばめられているものは深く広大で、読者を惹きつけてやみません。たしかに思えば前半部でもおだやかな中にもどこか少し不安にさせる描写があって、どれほど気楽に見える日常でも必ず影はあって、登場人物が抱える影は存外深い。しかし、いずれ私たちは影と対峙しなければならない。影を消し去ることはできなくとも、影を胸に抱えながら、影と手を取り合いながら生きていかなければならないんだと思います。西さんに一流のカタルシス展開。実に見事。読み終わってみれば、やっぱり西加奈子ワールドに取り込まれていました。
第6位.西加奈子「地下の鳩」
西加奈子「地下の鳩」がおすすめの理由
夜の街で働く人々の物語です。ホステス、客引きの男、おかまバーのママ。猥雑で欲に満ちた世界で、どうにか強く生きようとする人間の弱さと美しさが描かれています。人を見る目ばかりが長けてしまうのはあまり良いことだとは言えなくて、道化る瞬間も普通より多いし、悩み苦しみながら向き合い、食べていくために自分を納得させようともがく。そういう空気が小説じゅうに流れていました。傷があるから強くなれるのか、傷のせいで弱いままになってしまうのか。その深さや、残る痛みにもよるけれど、みんな何かを抱えながら、それでも人からは楽しげに見えるように生きていて、夜の世界はもしかしたら、そういうのが顕著なのかもしれないと思いました。癖があって、人間臭さが出ていて、正直に生きてるから、楽しみながら読み進められます。今回もまた、不器用さとか人間の個性とか、素直に生きていこうという勇気をもらえました。
第5位.西加奈子「円卓」
西加奈子「円卓」がおすすめの理由
主人公の「こっこ」こと渦原琴子は、孤独に憧れる小学3年生。とにかくこの子、口が悪いです。私も琴子ほどではないけど、孤独がかっこいいと思ったときがあったし、クラスの子が眼鏡をかけてきたら、自分も目を悪くして眼鏡をかけたいという気持ちになったことがある。だからなのか、こっこには憎めない可愛らしさを感じました。何気ない日常に、ほんの少し事件が起こり、気づかぬうちに成長していく子供たちの姿が上手に描かれていると思いました。ぽっさんとこっこの会話にははっとさせられます。こっこの悩みや考えを、真正面から受け止め全力で応えるぽっさんは格好いい。阿保で、人情味があって、なんだかしんみりしていて、あぁ大阪だなぁという感じの作品でした。子どもは、悩みぶつかり、そして乗り越えていく力をちゃんと持っているから過保護になる必要がないんだと気づかされました。
第4位.西加奈子「漁港の肉子ちゃん」
西加奈子「漁港の肉子ちゃん」がおすすめの理由
肉子ちゃんは太っていて不細工でとても明るい。小学5年の娘キクりん(肉子ちゃんに似ず美人)は、そんなお母さんが最近少し恥ずかしい。港町に生きる肉子ちゃん母娘と、二人を取り巻く町の人々の、温かくてちょっぴり切ない物語。読み始めたばかりの頃は、これは軽くコメディなのかと思ったのだけれど、読み進めていくと、とても濃厚な人間ドラマだということが分かります。肉子ちゃんみたいに損得勘定なしで思うままに生きることって、みんな心のどこかで憧れてはいるけど、簡単にはできない。肉子ちゃんの人生を知るにつれて涙が溢れ、彼女がキクりんへの揺るぎない愛情を感じて、家族って他人同士が努力をして築いていくものなんだということを改めて知りました。あとがきを読んで、物語はさらに深度を増しました。生まれるべくして生まれるってきっとこういうことなんだと。
第3位.西加奈子「サラバ」
西加奈子「サラバ」がおすすめの理由
本当に意味での信仰とは何か?について描かれている本だと思います。信じるものを手に入れた人間の強さと、他人に信じるものを求めてしまう脆さとを、予測できない展開で描き上げています。主人公の歩の歪みは、とてもわかりにくい形で、でもやはり引っかかるような感じを与えながら描かれています。それが後半では怒涛のように歩の人生を転落させていきます。言いようのない感動があって、すべて理解出来たわけではないのに、感じてわかる、という感触を得ました。自分的にはアイの方が自分に近いと感じましたが、感動の度合いや、スケールはこちらの方が上です。そして、信じるものを手にできず苦しい思いをする人に寄り添う本です。同時に、人間には物語が必要なのだと考えさせられた本でもあります。自分の体験を書き留めるという意味においても、言葉の力の確かさを感じました。
第2位.西加奈子「i」
西加奈子「i」がおすすめの理由
これまでいくつもの小説を読んできましたが、過去の自分を見ているような気持ちになった小説は初めてです。出身も、悩んでいる内容も違うはずなのに。西さんの描く話はどうしてこんなに引き込まれるんでしょう。一緒に苦しくなって嬉しくなって泣きました。主人公アイの苦悩は、本当にごく一部の人が抱える悩みだと思います。外の世界に悩まされるのではなく、自分自身の内面と対話して苦悩する。恵まれているのに孤独だし、恵まれているからこそ苦悩する。でもそんな悩みを持つアイに、親友のミナが言った言葉は私の中にも刺さるものがありました。アイデンティティの確立の物語でもあり、自分自身であるのかどうかつかみどころのないような、「愛」の存在を確立させる話でもあります。それを数学を使って暗示的に示してみせています。つかみどころのない物語だけれど、自分の中で忘れられない特別な本になりました。
第1位.西加奈子「さくら」
西加奈子「さくら」がおすすめの理由
家族の日常がとても温かく描かれているの同時に、とても残酷な出来事から崩壊する家族の様子も率直に描かれています。たくさんのエピソードを重ねて物語が進行するのですがそれぞれが印象的。お母さんが小さな子供に夜の営みの時の声を聞かれてしまったときに、返答に困るどころだと思うけれど、これがあるべき性教育ではないだろうか、と思えるほどでした。それと、お兄ちゃんのラブレターの話は衝撃的でした。しかも挟み込むタイミングが強烈。そして何より、表題にもなっている、犬のサクラ。話しかけてくるのをセリフで表現していて、なかなか新鮮に思えたのですが、無邪気で空気読めなくて可愛い。わりと重たいエピソードの多かったと思うのですが、サクラのふんわりとした存在感が和らげている印象でした。私も犬を飼っているので感情移入しながらラストの家族のやりとりは涙が止まりませんでした。