宮尾登美子おすすめの本ランキングTOP7
女性が主人公の、ドラマチックな作品が好きです。現代より少し前の、まだ女が弱く力のない存在だと思われていた時代の、女の人生を教えてくれます。男性の描く、ステレオタイプの女性ではなく、かといって、現代人のような自分の足だけで歩いている女性でもない、過酷な状況のなかでも生き抜いていった女性たちのドラマが描かれているので、惹きこまれます。宮尾登美子さんのおすすめの作品をランキング形式でご紹介します。
第7位.宮尾登美子「きのね」
宮尾登美子「きのね」がおすすめの理由
梨園が舞台の、女性の一代記です。11代目市川團十郎が雪雄ぼっちゃま、のちに妻となる千代さんが主人公光乃のモデルといわれています。実際、そうらしいです。主人公の光乃は家柄もなく、美人でもありません。仕事として、歌舞伎の名門一家に仕えることになるのですが、そこで、御曹司の雪雄のお世話をするようになり…という物語。 雪雄はとにかく、現代でいったら相当のダメ男だと思いますね。弱いくせに、弱いものに威張り散らすし、根性もないし、まさに「いいとこのおぼっちゃん」なんですが、 それが光乃の目にはすべて輝いて映る、らしいです。盲目的に、ひたすらに、尽くすんです。ちょっと現代の感覚だとありえない男女関係、です。でも、それが宮尾文学の醍醐味です。虐げられているのではなく、自分の意志で、ぼっちゃまに尽くしまくる彼女の姿が、最後にはうらやましくなってくるんです。ここまで、自分を捧げて尽くしたい相手がいるなんて、いいなあ…なんて、読み終わると切ない溜息なんかが洩れます(笑)。もう、光乃の勝ち!
第6位.宮尾登美子「鬼龍院花子の生涯」
宮尾登美子「鬼龍院花子の生涯」がおすすめの理由
映像化もされた、メジャーな作品です。映画の決めゼリフ「なめたらいかんぜよ!」が有名で、当然このセリフを言っていたのが鬼龍院花子だと思っていたのですが、原作では(映画でもですが)主人公は花子ではなく、花子の義理の姉になる、松江(花子の父の養女)です。この松江の目線で物語が語られていきます。やくざの家に引き取られ、養女ではあるけれど使用人のような立場で、それでも懸命にまっとうに生きようとする松江の姿に、こころ惹かれます。まじめに、まっとうに生きようとしてもやくざの娘である運命に足をすくわれることが多く、苦労も絶えません。養父鬼政に襲われそうになったり、つらいことも本当に多いです。でも、松江はまっとうに生き抜んです。そんな松江ですが、まっとうに、おとなしく生きようとしていても、幼いころから染みついている、やくざなりの筋の通った、胆の据わった本性が、時々顔を出すんです。映画の啖呵をきるシーンにもつながるんですが、それがまたかっこいいんです。弱くておとなしいだけのようですが、実は一族のだれより、気合入ってる…のが、本当にかっこいいんです。義理の妹の花子は、小説だとほぼ脇役です。甘やかされて育ち、どうにもならないお嬢様で、お金がなくなってもぐうたらのまま、正直イケてないです。この対比によって、また松江のかっこよさが際立つ、そんなお話です。金持ちのお嬢様がダメな奴だと、庶民はちょっとだけ留飲が下がります(笑)。
第5位.宮尾登美子「天璋院篤姫」
宮尾登美子「天璋院篤姫」がおすすめの理由
NHKの大河ドラマにもなりました。ドラマの印象も強いですが、原作は原作でまた面白いです。宮尾作品の特徴である、女性の一代記の形で描かれており、また時代背景なども興味深く、歴史作品としても創作の物語としても楽しめます。小説では、宮尾節が全開で、篤姫の高貴さ、力強さ、まっすぐさがびしびし伝わってきます。映像になると、男性の登場人物が深く描かれるようになるなあ、と思うのですが(大河ドラマでもそうでしたが)、小説ではぶっちぎりで女性が生き生きと描かれます。ドラマだと恋愛?の面もやっぱり入ってきますが、篤姫は「女としてのしあわせ」を手にできなかったわけで、それでも凛と生き抜いたところがいいんです。小説のほうが、史実に近いのかな?と感じました。どんな環境にあっても強く生き抜く(または死んでも自分を貫く)、そういう女性が描かれる宮尾作品が好きなので、与えられた使命を自分なりに解釈して行動し、自分が何のために存在しているのか、を見つめ続け、自分にできる限りの努力をし、前向きに進む姿に感動しました。宮尾作品の中では、トップクラスの高貴な主人公ですが、人の上に立つ、それだけの器量のある人物であったのだと思い、江戸の末期に思いを馳せました。抗えない流れの中で精いっぱい生きる人を描いた作品が多いですが、この作品は題材が題材なだけに、スケールが大きく、爽快な気分になれます。
第4位.宮尾登美子「蔵」
宮尾登美子「蔵」がおすすめの理由
ここから上位は、順位をつけるのも難しかったのですが、4位は『蔵』を選びました。雪深い北国の、造り酒屋のお嬢様である烈の物語です。これまでに挙げてきた作品の中でも、映像的には一番美しいと思います。雪国の風景、造り酒屋の風景、目の見えない烈の美しさの描写など、小説であるのに、まるで映画を見ているように、頭の中に情景が想像できました。昭和初期の、まだ近代化しきっていない暮らし、家父長制が色濃く残る時代背景、その中で一人娘である烈がいかに大切に育てられたか、が丁寧に描かれます、烈は、多少わがままなところはあるけれど、なんせ美しく、お嬢様らしい気品と気概を兼ね備えていて、主人公として申し分ない存在です。宮尾作品では、立場的に恵まれた生い立ちの女性を描くことがよくあります。正直、ちょっとイラっとしたり、共感できないときがあるんですが(それもまたメロドラマ的で好きなのですが…)、 烈はわりとかわいらしい部類に入ります(笑)。しかし、この作品の面白さは、烈のキャラクターが魅力的だということももちろんですが、なんといってもおばである佐穂の存在につきます。佐穂は、烈の母親であり造り酒屋の主人の意蔵の妻である佳穂の妹なんですが、謙虚で控えめで、読者のほとんどがこの佐穂に感情移入しているのではないかなあ、なんて思います。烈は魅力的だけれど、共感はしづらいキャラクターなので。佐穂は義理の兄である意蔵のことが本当は好きで、姉が「のち添えには佐穂を」と遺言して亡くなったので、このまま後妻になって旦那様と烈に尽くしていこう、と思っていたのに、意蔵が芸妓によろめいてそのまま妻にしてしまい、佐穂は後妻になれなかったんです。これが、『蔵』のサブストーリーです。烈の成長を描きながらも、裏にある大人の切ない思い…こっちに心惹かれてしまいました。烈の物語であり、その周りの大人たちの物語であり、とても重層的で奥深いストーリーの上に、映像美のすばらしさ、で4位に選びました。
第3位.宮尾登美子「朱夏」
宮尾登美子「朱夏」がおすすめの理由
この作品は、作者の自伝的な感じです。宮尾登美子さんのご実家が、いわゆる花柳界のお仕事をしていたというのは有名な話ですが、『朱夏』は宮尾さんの生い立ちとよく似た話になっています。実家の仕事を嫌い、早く家を出たくて17歳の若さで結婚。その世間知らずさ(お嬢様育ちゆえの、です)で婚家の人々をいらだたせ(てるように私は読みました(笑))、まわりの人々をいらだたせ、ザ・宮尾作品の主人公!という感じです。目の前に、小説内の情景が目に浮かぶように感じられるのが、宮尾作品の好きなところなのですが、この作品の情景の生々しさ、はすごいです。嫁ぎ先の田舎の生活も興味深く読みました。村の入り口近くまで牛乳を取りに行くシーンが好きです。婚家でも、大事に大事にされているんだけれど、夫の満州行きに目を輝かせてしまう(お姑さんがとても悲しそうなのに)、そういう空気の読めない感じ、世間知らずさがぐいぐい来ます。共感はできないけど気になってしまう、宮尾ヒロインの典型です。満州に行ってからも、主人公の空気の読めなさは続き、毎日着物を着換えたりだとか、お風呂を沸かして入ろうとしたりするとか(夫の学校の生徒を小間使いのように使うんです…なんの躊躇もなく…)読んでいて、胸が苦しくなります。主人公ももちろん辛い生活を送るのですが、それ以上に、周りの人々の悲惨な境遇が描かれます。一番つらい目に遭うのは、たいてい主人公ではなく、その周りの人々なんです。無意識に周りの人々を傷つけまくる主人公。イラつきながら、ムカつきながら、でも憎めず…。こんな人が身近にいたら嫌だなあと思いながら、上下二巻の作品を一気読みしてしまいました。満州の開拓に行った人たちがどのような生活を送っていたのか、学校ではここまで習わなかったので、歴史資料としても興味深いです。面白いです。
第2位.宮尾登美子「寒椿」
宮尾登美子「寒椿」がおすすめの理由
壮大な長編が有名な宮尾さんですが、短めのお話も素敵です。。この『寒椿』は、何度も何度も読み返しました。面白いです。五人の女性の群像劇で、通しでは一つの大きい物語となるのですが、一人ひとりの物語が、彼女たちの目線で描かれます。短編小説の集合体、のような作品です。四人の芸妓、澄子・貞子・民江・妙子と、彼女らの子方屋(芸妓の置屋)の一人娘悦子の物語です。舞台はもちろん高知です。ところどころにでてくる高知の言葉がまた魅力的で、映像化はされていないと思うのですが、鮮やかにシーンが目に浮かびます。それぞれの人物もまた魅力的で、特に芸妓の四人に関しては、どの人物も造形が素晴らしいです。四人とも、好きで芸妓になったわけではなくく、みな事情があって売られてくるわけです。そんな境遇のなかでも、それぞれが違った生き方をしていくのですが、芸妓としての運命を受け入れ、ある旦那との出会いから幸せというものを知り、芸妓らしく生きていく澄子。最後は半身不随になってしまうのですが(物語では最初に描かれます)、女の立場の弱さ、辛さが存分に描かれています。貞子は、とても美しい容貌をもっているのですが、今一つ気概がなく、最後はかなり落ちぶれます。その落ちぶれた生活の中でも、盲目的に愛してくれる男と暮らし、美貌だけを頼りにして生きていきます。不摂生しているので早死にしますが、これもある意味、女としての幸せなのか、と考えさせられました。女にとって、美しいということがどういう意味を持つのか、を考えさせられます。民江は斜視で、すこし頭が弱いところがあったり、感情のコントロールができないところがあります。そんな民江でも、彼女なりに、力強く生きていきます。世間では彼女のような存在はとても生きづらい時代でしたし(あからさまに蔑まれることも多い)、今だったらもっと周りもやさしく対応できただろうに、なんて感じます。ですが、彼女は彼女の理論で、まっすぐ生きていきます。民江のパートが、一番明るく感じられます。芸妓稼業の辛さ、悲しさは澄子・貞子パート、人間の力強さは民江パートで描かれます。妙子は、すこし毛色が違って、芸妓としてのし上がるのではなく、最終的には社長夫人にまでなります。過酷な環境にあっても自分を見失わず、自分にできる最大の努力をし、その知性で色街から抜け出しました。妙子のパートは、作者のやさしさ、希望なのだろうなあと思いました。読んでいる私も、芸妓がみんな哀れな存在ではないのだ、と教えてくれます。そして悦子。これは宮尾作品の定番の(『櫂』に始まる一連の流れです)、実家が花柳界のお仕事をしていて、それを心苦しく思いながら成長していく娘、という設定です。これも作者の体験が投影されているんだろうなあ、と思います。同世代でもあった四人との微妙な関係。『朱夏』ほど、腹は立ちません(笑)。悦子が謙虚だからでしょうか。悦子の視点により、四人の半生が描かれる部分も多いです。高知の情景、色街の日常、登場人物の息遣いまで感じられる、大好きな作品です。
第1位.宮尾登美子「陽暉楼」
宮尾登美子「陽暉楼」がおすすめの理由
なんといっても、一番のおすすめは『陽暉楼』です。二位の『寒椿』同様、舞台は高知の色街ですが、『寒椿』が名もなき女たちのそれぞれの半生を描く日常系だったのに 対し、『陽暉楼』は、華やかな世界そのものが舞台となっています。情景の華やかさ、これはほかの宮尾作品と比べてもダントツです。映画化されており、派手で華やかな 世界の裏にある、あわれな女たちの世界が描かれた作品です。宮尾作品の真骨頂、最高傑作だと思います。まずは情景描写。高知弁でのセリフ、色街の日常の描写など、本当に情景が目に浮かぶようです。建物の描写ひとつとっても、その建物の様子が想像できます。芸妓の衣装の描写もすばらしく、また芸妓たちの踊りの描写も目に浮かぶようで、頭の中で陽暉楼が再現されます。人物も、魅力的です。男も出てきますが、この作品はとにかく女がいいんです。主人公桃若。美しいけれど不器用で、周りに誤解されることもあるけれど、清く正しく美しく、という芸妓には不似合いな女性だと思います。色街に生きながら、いわゆる女の武器をうまく使えないところがあります。対照的に描かれる、女としての性を謳歌している同僚たち。ただ浅はかでいやな奴、もいるけれど、親友でもあった胡遊のように、桃若とはタイプは違うけれど生きる強さを持った存在も魅力的です。はじめは桃若のことを慕う純粋な少女であった後輩のとんぼ。彼女は最後には桃若を裏切り、女を最大の武器として生きていくだろう姿が描かれます。女の世界のこれでもか、といったどろどろしたドラマ、その中にある桃若の凛としたたたずまい。物語の終盤、桃若は病に倒れ、悲しい最期を迎えますが、最後まで桃若のみずみずしさ、清潔さが描かれていました。宮尾作品を読んでいると、女であること、を考えさせられます。桃若の出産シーンは、衝撃的でした。初めて『陽暉楼』を読んだのは大学生の時で、知識としては知っていた出産のリアルを知り、正直、子どもを産むことに恐怖を覚えました…。今ではは二児の母ですが(笑)。ほかにも、男女のシーンも描かれますが、直接的ではないのに具体的に想像できてしまい、リアルです(笑)。初めて若くて素敵な男性に出会い、桃若は心奪われ、その人との子も身ごもりますが、この男が本当にダメ男で。もう腹が立ちます。なにそれ、って感じです。こんな男、こっちから願い下げ、桃若も早く見切りをつけて前に進んでほしい、なんてやきもきしますが、それができないのが桃若。ピュアなんです。陽暉楼一の芸妓、とまで言われたのに、女として、ずるく要領よく立ち回れない桃若。とても哀れで、でもいとおしくて。『陽暉楼』は、主人公桃若の魅力、周りの女性たちの魅力、高知の色街の艶やかな情景、その裏にある哀れな女たちの人生、が余すところなく描かれた、一大エンターテイメント作品です。宮尾作品を読むなら、まずはこれがオススメです。